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薬の効用がなかったとは言いませんが、結核が減った本当の理由は栄養の改善なのです。
ロックフェラー研究所の生物学者デユボス博士のお話ですね。
あれは実に面白い話なのです。
一九六〇年のことです。
当時、私は山陽新開の記者で、新聞協会派遣の科学記者の欧米視察に参加して、ニューヨークでデユボス博士を訪ねました。
六月のある日でした。
ちょうど誕生日にやってきたというので、デユボス博士は大変ご機嫌で、バースデーケーキを切って私たちに食べさせてくれました。
彼はケーキをみんなに勧めながら、「日本は結核が減ってよかったが、何が理由で減ったと思うか」と開いたのです。
一緒だった五、六人の記者は、ストレプトマイシンやパス、ヒドラジッドなどの薬剤の開発を挙げました。
結核検診やBCG(結核の予防接種)と答えた人もいました。
ところが、「そう言うだろうと思っていたが、ぜんぶ違う。
結核が減ったのは栄養の改善だ」とデユボス博士は言うのです。
「何より証拠には、イギリス、ドイツ、フランスでは、百年近くも前に、結核が減っている。
そのころには、抗生物質もBCGもなかった。
これらの国の食生活がよくなったからで、日本での結核減少の理由もそうである。
現に、いまだに食生活が悪い地域では結核が多い」と解説したのです。
現在も、栄養状態が悪いアフリカやアジアのある地域では結核死が多いですね。
私は、デユボス博士の指摘は、その通りだと思います。
栄養の改善は、薬の効果以上に大きな意味を持つこともあるわけです。
いまの日本人は背が高いしスマートですね。
結局は、おいしいもの、栄養のあるものを食べるようになったからです。
一九六〇年にロンドンのウエストミンスター病院を訪ねたら、病院の入口に木でつくった人間の模型みたいなものがありました。
「あれは何か」と院長に間いたら、「一六〇〇年代の終わりにイギリスにいた人の背の高さだ」との答えでした。
模型の身長は一六三センチでしたが、当時のイギリス人は一九〇センチ近くある人もいました。
二十数センチも伸びたのです。
これは、やはり栄養の改善でしょう。
―ヨーロッパの中世のお城で、王さまのベッドが極めて小さいのに驚いたことがあります。
中世の王さまは、あんなに小柄だったのかと思います。
何世紀か前のベッドは、ぜんぶ小さいのです。
体格がよくなった、そして病気に対する抵抗力がついたのは食べものの向上で、薬ではないと思うのです。
ですから、いまでも栄養は、きちんと食べものから取るべきですね。
患者も勉強しなければ。ところで、「日本の薬の種類は多すぎる。
薬をよく知って使うにはもっと種類を絞った方がいい」と訴えておられますが。
薬を問うということは、薬の内容を問うということだと思います。
内容をきちん理解した上で、上手に使うべきです。
日本は健康保険で使用を認められた薬価基準登載薬品だけで一万五千種類もの薬剤があります。
それでは種類が多すぎて、とても全部を把握しきれません。
WHO(世界保健機関)は、「薬剤は二百七十種類でいい」という主張をしています。
商品名ではなくて物質名で二百七十種ということですが、それでおおむね足りるというのです。
エッセンシャル・ドラッグというのですが、このくらいになれば、専門家だけでなく、一般の人もかなりのレベルまで理解できるのではないですか。
インフォームド・コンセントの重要性が論議されますが、「説明を受ける患者さんも勉強しなければだめだ」とはあまり言われません。
「それをちゃんと説明するのが医師の仕事だ。
患者さんが勉強する必要はない」とする人もいますが、それは違うと思いますね。
何も知らない人に説明するのは、よほど天才的な人ならできるかもしれませんが、普通は無理で、理解して納得してもらうのは困難です。
1私たち市民は、どこで、どのような方法で正確な知識を学んだらいいのですか。
大先生″のお書きになった文章は難解なものが多く、一般読者には骨が折れます。
一方で、いい加減な情報を流すマスコミもあるわけです。
さて、どうするかですね。
医学記事には、三つの原則があると思うのです。
まず、読んで分かりやすいということです。
次いで、内容が医学的に正しくなければ意味がありません。
三番目は、それを読んだ人が自分の生活態度を変えるぐらいの迫力があることでしょう。
この三つの条件を満たしたものが、優れた医学記事です。
私はずっとそう考えています。
また、アカデミズムとジャーナリズムの接点というのは、両方をごちゃまぜにしたものではないのです。
両者を理解し、そしゃくして、内容のあるものを書かなければなりません。
それには、志がないとだめですね。
書く方に、それだけの努力が求められるとともに、受け手側も取捨選択して、きちんと読んでいただきたいと思うのです。
―健康情報、医学情報の質は、現実的にまちまちです。
読者が取捨選択する知恵や基準のようなものはありますか。
私はずいぶん前から、「日本医師会のなかに良書選定委員会のようなものをつくったらどうか」と訴えているのです。
医師だけではなくて、幅広い有識者を含めて委員にするのです。
何も、「この本は悪い」と言う必要はないのであって、薦めたい本を選定するのです。
いまの出版のテンポですと、「この本を推薦します」というのを、毎月五冊とか七冊ぐらい挙げればいいでしょう。
―それは、ぜひ実現させてほしいですね。
そうすると市民の選択の手がかりになります。
最後に、私たち一人ひとりが、薬とどう向き合い、つきあっていったらいいのかをお聞かせください。
まず、自分が飲もうと思う、あるいは飲んでいる薬は、どういう成分で、からだに対してどのような作用をするのか、どんな副作用があるのかを十分理解することが大切です。
そして、処方を守る癖をつけなければなりません。
二倍飲めば二倍効くと思っている人は、多いですから。
逆にいたずらに副作用を恐れて、神経質になっている人もいます。
自分に必要な薬中心でいいですから、大いに勉強していただきたいですね。
もの足りて飽食に酔い、肥満と合併症に泣く。
長い間の飢えから解放された現代人の馨りなのだろうか。
そして、運動不足とストレスが肥満に拍車をかける。
飽食の末のダイエットは、野生動物には想像もできないことであろうし、それが商売としてお金になる時代だ。
肥満と健康を考えることは現代社会、現代人の生き方を問うことでもある。
進歩のパラドックス―外食産業が増えました。
コンビニやスーパーには、いろいろな食べものがあふれています。
日常の食卓にも、「ハレの日」に食べるような料理が並びます。
私たちは、かつてない飽食の時代に生きていますね。
確かに食生活は、飛躍的に豊かになりました。
私は群馬大学(前橋市)の出身ですが、学生のころ(昭和四十年代)は、夜遅くなれば、学生がご飯を食べに行けるところは数えるぐらいでした。
それが二十四時間、どこでも簡単にファーストフードが手に入るようになりましたし、一品ごとのカロリーが、昔より増えているような気がします。
「何円で食べ放題」のようなものも結構ありますし、何を注文してもワーツと品物がでてきますね。
―からだにエネルギーがいっぱい入ってくるようになったわけです。
人類は進化の過程では飢餓の時代が圧倒的に長かったですから、こんなにものを食べるようにできていないのではないですか。

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